こんにちは、pokoblogです
2021年本屋大賞を受賞した町田そのこさんの作品、『52ヘルツのクジラたち』を遅ればせながら拝読したので、今回はその感想・特に心に刺さったフレーズをご紹介していければと思います(*´-`)
本書を一言で表すなら、『しあわせを見つけるための作品』です…
題材としてはすごく暗いものなのに、その中に綺麗な言葉が溢れているような…そんな作品です
✏︎本書をおすすめしたい方✏︎
- 辛い日々が続いていると感じている方
- 人間関係に疲れている方
- 一人になりたいと思っている方
ぜひぜひお手に取っていただければ!と思います
52ヘルツのクジラたち レビュー
読みやすさ:★★★★★
ズバリ!めちゃくちゃ読み進めやすい!
最初からドドン!気になる感じで入ってきて、『え、どういうこと?』といい意味で読み手が置いていかれて、続きが気になってしまうからです笑
まず主人公の生い立ちや、どうして一人遠い小さな町へ引っ越してきたのか…などなどミステリアスな部分が多すぎて、中盤に差し掛かってようやくその全貌が見えてきたときの衝撃がたまりません…!
小説を読み慣れていない方でも、気になってついついページをめくってしまうのではないでしょうか!
内容:★★★★
暗い過去を抱えて、誰も知り合いのいない小さな町に引っ越してきたミステリアスな主人公は、その町で何か異質な雰囲気を漂わせる謎の少年と出会い、その少年を辛い現実から連れ出す…
という、ざっくり説明するとよくありがちな内容とも取れますが、その道中で主人公の過去、出会った人物たちを知っていくことで、すごく深い人間の繋がりが見えてきます
そういった暗い現実を表す表現…周りの人に自分の声が届かないというもどかしさを表した表現が、“52ヘルツのクジラ”なのです
特に、主人公を救い出してくれた人物、“アンさん”がすごくいい人で…でもこんなに他人のしあわせを願ってくれ、すてきな言葉選びが出来る人は現実にはいないだろうな…とthe小説の世界の話だな、と思うところが少々ありますが、それでもなおアンさんの価値観・考え方には心にくるものがあります
主人公はもちろんですが、そんな主人公を救ってくれた周りの人達それぞれにも何やら暗い影が潜んでおり、みんなそれをうまく乗り越えたり、隠し通したりして、他者である主人公のしあわせを願って尽力する…という、とても幸せな人間関係があります
人間関係においての辛い経験や過去があり、他者を信用できなくなっていた主人公ですが、実は周りの人に恵まれていたことに徐々に気付き始めるのです
感動度:★★★★
辛く、暗い過去から救いあげてくれた人たちによって、第二の新しい人生を生きつつある主人公と、その主人公が見つけた何やら訳ありげな少年…そしてその少年を今度は“救う番”として翻弄する主人公…
絶望の淵にあった主人公を救いあげてくれた人たちの優しさ、寛大さはまさに感動そのものであり、そんな彼らもまた自分自身の心のどこかに傷を負っている…というちょっぴり切ないストーリーです
心に傷を負った者同士が、誰かに救われ、同じ状況の他者を救っていく…
本書を通して語られる最大のストーリーとも言えます
自分自身が心のどこかに傷を負っているせいか、他者に同じ思いをさせまいとすごく強く、優しく接する人たちの思いやりにすごく心を打たれます
いろんな登場人物の優しさが溢れている作品です…
52ヘルツのクジラたち あらすじ
家族から愛されずに育った主人公である貴瑚は、ある理由から九州の海のある田舎町に一人で引っ越してきた
誰も知り合いのいないその町で、携帯電話も解約して誰とも接点を持とうとしない彼女だったが、ある日不思議な雰囲気を醸し出す少年に出会う
その少年は家族からムシと呼ばれており、体に無数のアザがあることから、虐待を受けていることを知った貴瑚は、自分の過去と同じような状況におかれている少年をなんとかして助け出したいと思うようになる
そんな彼女の元に、かつてどん底にあった彼女を現在の通常の生活ができるまでに救い出してくれた友人の一人、美晴が押しかけて来て、少年を救うための画策が始まる
なぜ貴瑚は一人で誰もいない町へ引っ越してきたのか、どうしてかつての親友とも連絡を絶ってしまったのか、彼女が窮地に追いやられた時によく助けを求める“アンさん”とは一体何者で、今はどこにいるのか…
そして、貴瑚が少年に聞かせてあげた“52ヘルツのクジラ”の鳴き声、そしてその52ヘルツのクジラの意味とは一体なんなのか…
ストーリー全体を通して、主人公である貴瑚をどん底の過去から救いあげてくれた温かい人たちの話、そしてそんな貴瑚が次に自分が他者を救う番として翻弄する姿が描かれています
“52ヘルツのクジラ”とは?
本書のタイトルにもなっていますが、そもそも52ヘルツのクジラとはなんなのか?ということについてご紹介します
そもそもクジラは海の中でもお互いが分かり合える周波数を出し合って会話をしていると言いますが、その周波数は一般的に39ヘルツくらいだと言われています
そんなクジラたちの中で、52ヘルツー他のクジラよりも高い周波数で会話をするクジラがこの世界のどこかにいるらしく、周波数が違うということはどういうことかというと、『他のクジラに自分の声を聞いてもらえない』ということです
つまり、52ヘルツで鳴くクジラは世界で一番孤独なのです
幼い頃に両親に虐待を受けていた主人公貴瑚は、そんな52ヘルツのクジラに自分を重ねて生きてきました
そんな彼女を救い出してくれたのが、本書の至る所で彼女が救いを求める時に名前を出すアンさんという人物で、このアンさんによって貴瑚は、自分の声が届く世界、他のクジラと同じヘルツの声を出せるクジラになったのです
そんな矢先に引越し先の町で出会った不思議な雰囲気を持つ少年も、体にたくさんのあざを付けていて、貴瑚と同様に虐待を受けていることを知ります
その少年を、自分と同じ目に合わせてはならない、今度は自分が彼をみんなのところへ連れて行く役目を果たそうと、貴瑚は少年を救い出す決意をし、そして彼に52ヘルツのクジラの話をするのです
つまり主人公と少年は、この物語における“52ヘルツのクジラ”ということです
心に残るフレーズ3選
ここからは、わたしが本書を読んで特に心に刺さった、素敵なフレーズをご紹介していきたいと思います
物語の主人公である貴瑚は、困難に直面した時、ひどく絶望して立ち直れなさそうな時、決まって心の中で『アンさん、アンさん』と救いを求めるのです
幼い頃であれば、苦しい時に呪文を唱えるように母の名前を呼んだのでしたが、それは次第にアンさんに変わっていき、気づいた時には母に代わってアンさんの名前を呼ぶようになっていたのです
アンさんというのは、幼い頃から続く両親からの虐待で塞ぎ込んでしまい、一時は死をも試みた…52ヘルツのクジラとして、誰にも自分の声を聞いてもらえなかった貴瑚を救い出し、新しい人生へと導いてくれた人物です
アンさんはいつだって貴瑚を優しく励まし、人生に絶望していた彼女を『きっとしあわせになれる。それまでは守ってあげる。』と寄り添ってくれていたのです
そんなアンさんと、ある事情から会うことができなくなってしまった貴瑚は、アンさんのくれた数々の言葉を胸に生きるしかないのでした
本当の声はもう聞くことができないので、過去にくれた言葉たちを胸に抱えて生きていく…そんな生き方をしていきたいと思う貴瑚ですが、『自分はそこまで高潔な人間ではなく、ただの弱い人間なのだ』と、ただただもう一度アンさんの声が聞きたいと、届かない思いをこぼしては涙を流すのでした
辛い時にいつも頼りにしていた人の声を二度と聞くことができないのは、不安のやり場がなくなって、絶望した気持ちになってしまいますよね…
辛い現実を背負っていて、でもその絶望を誰も分かってくれない、聞いてくれない…そんな自分自身を貴瑚は“52ヘルツのクジラ”に例えていたのでした
そしてその52ヘルツのクジラの声を、辛い時になるとよく聞きながら眠りについていた貴瑚は、同様の話をムシと呼ばれる、過去の自分とよく似た雰囲気を持つ少年に聞かせてあげます
少年は虐待の影響からか、声が出せない状態であり、声による会話、感情表現は困難なのでした
そんな少年は初めて聞くクジラの声に聞き入っているようで、この言葉は貴瑚が優しく少年に話しかけた時の言葉になります
相手の声を全身で受け止める感覚、自分の声も遠くにいる相手にはっきりと伝えられる感覚…
そんな感覚を知らない(失ってしまった)少年に対して、『そういうしあわせにきっと出会えるよ。今度はわたしが導いてあげる。』と、貴瑚は優しく諭すのでした
“言葉”を伝えられないからこそ、クジラのとるコミュニケーションの方法に心惹かれたのでしょうね
家族との関わりの中での疲労・絶望から死すらを望んでいた貴瑚を、アンさんは親しみを込めてキナコと呼んで可愛がっていました
そして貴瑚が家族に捧げてきた辛く暗い人生は第一の人生であり、その人生に別れを告げて、新たな第二の人生へと導いたのです
アンさんは常に貴瑚のしあわせを願っており、人を愛することはおろか、愛されることすら知らなかった貴瑚に対して、魂の番(つがい)という言葉をよく用いて、必ずしあわせになれる、それまでは必ず守ってあげると言ってくれるのでした
自分のことだけを思って伝えられる、そんな優しい言葉を貴瑚は知らなかったので、アンさんから向けられるそれらの言葉・想いに日々感謝し、涙するのでした
他者のしあわせを常に願ってくれるアンさんの優しさ、懐の深さはなかなか真似できるものではありません…
52ヘルツのクジラたち まとめ
本作品の登場人物たちは、皆優しくも、心の中に葛藤や傷、辛い過去などを忍ばせています
そんな彼らだからこそ、他者の気持ちがよく分かるのです
いわば、本作品は優しさの鎖を繋いでいく物語といえます
普段何気なく生活している中ではなかなか気づくことはありませんが、ひとというのは皆、周りの誰かの優しさによって支えられているのだと、そんなことに気づかせてくれる作品です
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